《基本情報》
原題:The Revenant
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールター
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
音楽:坂本龍一
アメリカ西部開拓時代。毛皮ハンターの一団は、雪深い未開の森で先住民に襲われ、多くの犠牲者をだして砦に逃げ帰ろうとしていた。森を進む道中、ガイド役のヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は熊に襲われて、身動きできないほどの重傷を負ってしまう。
隊長はグラスを連れて戻るのは無理だと判断。瀕死のグラスを森に残し、部下のフィッツジェラルドに、その最期を丁重に看取ってから戻るよう命じた。だが、次第に足止めを食らっていることに我慢ならなくなったフィッツジェラルドは、グラスを殺そうとし、止めに入ったグラスの息子を殺してしまう──。

雄叫びをあげるディカプリオ。 出典: YouTube
今から20年ほど前、『タイタニック』で金髪碧眼の美青年として華麗にブレイクしたレオナルド・ディカプリオ。その後『ギャング・オブ・ニューヨーク』などでヒゲ面ワイルドな役に挑戦していたものの、初めに綺麗な「レオ様✨」として記憶してしまった者としては、どうにも汗臭い役がしっくりこない感がありました😓…が、今作で初めて、ヒゲのディカプリオがかっこよく見え、ジョー・グラスになりきってる姿に純粋に引き込まれました!
ディカプリオはこの映画で初めて、アカデミー賞主演男優賞を受賞しています。「イケメン」「王子様」の呪縛から、名実ともに完全に解放された感じですね🦅
原作は『蘇った亡霊:ある復讐の物語』という小説。アメリカの西部開拓時代の実在する罠猟師ヒュー・グラスのサバイバル体験をもとにしている、とだけあって、過酷な自然との戦いは地味ながら緊迫感があります。なによりも、未開の森の風景が神々しく、ディカプリオの無言の一人芝居がかなり長い時間つづいても、迫真の演技のおかげで見飽きません。
派手なアクション映画よりも、斧の一振りが、限りなく重い!!
音楽が坂本龍一だということを後で知ったのですが、どんな音楽だったか思い出せない😅たぶんそのくらい、大自然の映像と完全に一体化していて、荘厳さを引き立てていたんだと思います。

出典: YouTube
この世に生きながら「神」を見る瞬間

出典: YouTube
馬が車になり、ロウソクがLEDに進化しても、人間そのものは石器時代からそんなに大きく変わっていない。
この作品を観ると、19世紀の文明社会からやってきた近代人でも、ひとたび原始の森に踏み入れば、原始人と大差ないのだ、ということを痛感させられます。
当然現代人だって、服やスマホをはぎ取られて裸一貫で森に放り込まれれば、そうならざるを得ないでしょう。
息子を殺された男の復讐劇、というあらすじだったので、てっきり怒り狂ったハンターが、自分を見捨てた仲間を一人一人仕留めていくような、緊迫の追走が始まるのかと思っていました。
しかーし、
本作の8割がたは、極寒の原初の森、厳しい自然の中で、身一つの人間がいかにちっぽけで無力であるか──または、どれほど野生の生き物としてサバイバルできるのか、という描写に割かれます。
静かで、荘厳で、美しく。それでいて、人の命のなんてあっけなく奪っていく、自然。
「自然を守ろう!地球に優しく!」などという標語とは、まるで真逆で、
ここでは、自然が人間を殺す、のです。
とはいえ、自然はあくまで無情。人が人を殺すときのような激情はなく、淡々として平等。凍死するほど寒くても、葉のない巨木が林立する白銀の野や、夜の森に火の粉が舞う光景は、皮肉なほど幻想的です。
「復讐は神の手にゆだねる」
という言葉が印象的でした。
物語の中で、神について触れられる部分が何回かあるのですが、ここでいう神とは、たぶんキリスト教的な神とは違うのでしょう。日本なら八百万(やおよろず)の神というように、あらゆるものに神性が潜んでいる、アニミズム的なものでしょう。
極限状態の時に手を差し伸べてくれた人に、後光がさして見えることってありますよね? 自分でも気づかないうちに、他人にとって自分がそう見えている瞬間だってあります。(こんな私が?と思ったとしても、一瞬輝く時というのは誰にでもあるものです)
飢え死にしそうな時にたまたま捕まえたリスが、そう見えることもあるし、
誰かが命を落としたのと呼応するように、雪崩が起きることもある。
なんの理由もなく熊に殺されかけ、なんの理由もなく生き返ることも、すべては自然の手のひらの上で起こること。
自分の力でできることをやりつくしたら、あとは、その大きな手に身をゆだねるしかない。
『レヴェナント』はそんな、現世で神を見る「気づきの瞬間」を、何度も見せてくれる映画でした。