雑記:深夜のバス停に取り残された人々(香港)

よく人から道を聞かれます。

それも家の近所より、なぜか遠出して、自分でもまったく道を知らない場所で聞かれることが多いのです。

香港でもそんなことがありました。

香港という都市は、中国本土側の九龍半島と、香港島にまたがっているのですが、夜更けになると、そこを行き来するフェリーがなくなってしまいます。

のんびり夜景を見ているうちに、島で最終便の船に乗り損ねてしまった私は、本土側の宿にどうやって帰ったものか、途方にくれていました。

半分消灯して人気のないターミナルに、やはり何人か乗り損ねたような人々がいて、ぞろぞろと非常階段のような所を降りていくのが見えます。ついていくと、階下にはバス停があり、わけのわからない中国語の行き先が表示されてたシャトルバスが、ものすごい勢いで入れ替わり立ち替わりやってきては、人を満載にして去っていくのでした。

フェリーがない時間帯はバスで行く、というわけです。

たくさんいた待ち人の数はみるみる減って、やってくるバスも次第に少なくなっていきます。

まったく見覚えのない街の名前が書かれているから、乗ったら戻ってこれないかもしれない、と思うのですが、人が少なくなり、バスも途切れ途切れになってくると、次第に、「最後の一人になる前に飛び乗ってしまいたい」という妙な誘惑に駆られてきます。

アスファルトを照らすのはオレンジ色のアークライトだけで、静寂の中を小さな蛾が飛び交っていました。

そのとき、そばにいた中国人の若者2人組が、

「×××行きのバスはまだ来てないですよね?」と、不安そうに尋ねてきました。

50人くらいいたバス停には、もう5人くらいしか残っていません。

たぶん50人のうちで、一番どん臭い5人です。

誰の脳裏にも、このまま待っているうちに一本もバスがこなくなるんじゃないか?と疑いがよぎりはじめたころでした。

私は「わかりません」と言って苦笑いしました。

中国本土からの旅行者の二人は、私が戸惑って不動で立ち尽くしていたのを、知っていて待っているのだと、勘違いしたらしいのです。

その後すぐ、目当ての地名がはっきり書かれたバスがやってきて、2人組の中国人ともども、同じバスで無事本土まで帰ることができました。

大勢の人の乗るバスになんとなく乗り、こんなはずじゃなかったという場所に到着しても、まわりにいる同乗者や運転手が、責任をとってくれるわけじゃありません。

どうせ乗るなら、ボロくても行きたい場所に着くバスか、

超デラックスなバスがいいな。