奇妙なくらいの方が人生は面白い『マダムと奇人と殺人と』シュールなユーモアとサスペンス

出典: 映画.com

《基本情報》

原題:Madame Edouard

出演:ミシェル・ブランディディエ・ブルドンオリビエ・ブロシュジュリー=アンヌ・ロスジョジアーヌ・バラスコ

監督:ナディーヌ・モンフィス

製作国:フランス・ベルギー・ルクセンブルク合作 製作年:2004年 97分

ビストロ「突然死」の面々と、レオン警視。 出典: YouTube

あらすじ

ベルギーの古都ブリュセルの墓地で、若い女性の連続殺人事件が起こる。捜査にあたるのはレオン警視(ミシェル・ブラン)と相棒のボルネオ(オリヴィエ・ブロッシュ)、そしてたまに人には聞こえない人語でつぶやく犬のバブリュット。捜査を進めるうちに、彼らは風変わりな常連客が集まるビストロ『突然死』に行き着く。

そこではオカマの掃除婦イルマ(ディディエ・ブルドン)が、難しい決断を迫られていた。幼い時に別れて以来会っていない娘と再会することになり、自分の父親がオカマだということを知らない娘とどう接するべきか?悩んでいたのだ。

はたして、父娘の再会はうまくいくのか?殺人事件の真相は──?

(右)ヒョウ柄×ヒョウ柄のお母ちゃん。(中)いつも変なピアスをつけているやる気のない秘書。(右)ピアスからコーヒーミルクを搾乳! 出典: YouTube

「マダムと奇人と…」というより、奇人と奇人と奇人と──殺人事件を追う中年警視以外──奇人しか出てきません! たしかに出てくる女性はアクの強い熟女揃いですが…、だれもかれもが強烈な個性の持ち主です。インテリアやファッション・小物も珍妙で、徹底してシュールな画を楽しめます。『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督がテクニカルコーディネイトを担当。原題は「Madame Edouard」なので、マダムとは昔エドワードと名乗っていたイルマのことなのかもしれません

ベルギーの古都ブリュッセルを舞台に、風変わりな人々のコミカルな人間模様を横糸に、若い女性の連続殺人事件を縦糸にした、一風変わった人間賛歌。すでに世知辛い人生の戦場でボロ雑巾のようになっている人に「明るく!前向きに!いい人になろう!」なんて鞭打つようなメッセージは一切ありません。ただ、ビストロ「突然死」で交わされる会話を聞いていると、堅苦しく思い悩んだりするのがバカバカしくなって、自然と笑ってしまいます。

毒舌のきいたユーモアを楽しむ方がメインですが、とりとめのないエピソードをつなぐ殺人事件の真相も、不気味さと深遠さがあって、ミステリーとしても満足できました。原作は、フランスでカルト的人気を誇る『レオン警視』シリーズです。


ありのまま行け。愛があれば、笑ってくれるさ

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警視のオフィスにあいた謎の焼け焦げた大穴。毎日奇怪なピアスをつけてくる秘書。ときどきやる気のない独り言(人語)をつぶやく犬。相棒はハゲちゃびんの冴えない小男ですが、奥さんは浮気を疑って電話をかけまくってくる…旦那がそんなにモテ男に見えてるのは奥さんだけでは!? ──と、冒頭から、なんだコリャ!? というものばかり。

しかもレオン警視の、懸賞マニアのお母さん(母息子2人暮らし)のキャラも超強烈で、景品のヒョウ柄のお鍋に、景品の芽キャベツオンリーのすっごくマズそうな夕食を出してきます。(しかも4日連続…)

とにかく出てくる登場人物の言動がことごとくズレているので、「おいおい…」とツッコミたくなるところ連続です。

みんな好き勝手に生きていて、ルールがない感じが、おもしろいっ😁

そして、魅力的なのが、そんな人々が集まるビストロ、その名も『突然死』。どっちを向いても、ひと癖もふた癖もある変人だらけ。

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ふだんそこで不真面目な悪態を連発している彼らですが、唯一シリアスになって友人の悩みに耳を傾けるシーンがあります。オカマの掃除婦イルマが、昔男だった時にできた娘と再会することになり、自分が今は女になっていると知らない娘とどう接していいか、悩んでいる場面。

父親がオカマで不憫だって思うんなら、その時だけ「男になるんだね」と辛口に意見する常連のマダムに対して、

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あれほど悩んで受け入れた自分を否定したくない」と、元気なくつぶやくイルマ。

バーテンとコックはいつになく真剣な表情で、

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ありのまま行け。愛があれば、笑ってくれる」と助言します。

コメディを観ながら眉間にシワを寄せて考えるなんて無粋というもんですが、

この映画を観ていて愉快な気分になれるのは、そういう精神が根底に流れているからなのかなって気がします。

「個性的なことが魅力」みたいに言われる世の中でも、結局もてはやされるのは、流行にあった個性だったり、周囲にとって役立つ個性だけです。でも、個性って、本当は他人に役立つものばかりじゃないですよね?

自閉症やADHDやアスペや性同一性障害も、「障害」呼ばわりされるけど、個性です。病名がない時代だったら、ただの「変わった人」。

そこまで極端じゃなくても、とくにまわりから歓迎される才能を持ってるわけじゃない「ただの変わり者」は、学校なり社会なりに加わろうとした時、どこかで壁にぶちあたって、苦悩を経験をすることの方が多いんじゃないでしょうか?

人生で、毎日死ぬまで付きあい続けなければいけない友人は「自分」なのに、

孤立無援に追い込まれても、最後まで見捨てず守ってくれるのも「自分」なのに、

その自分を、恥じて隠したり、追い詰めたり、矯正しなければ使い物にならない欠陥品のように扱うのは、だれにとっても苦しいことですね。

──本当は、必死になって隠したり削り落とそうとしている部分の中にこそ、あなたをあなたらしくしている「宝の原石」があるかもしれないのに。

「あれほど悩んで受け入れた自分を否定したくない」

もちろん、他人を殺傷するような個性はNGです。ビストロ「突然死」のバーテンダーは言っています。

少しみっともなかったとしても、

「愛があれば、笑ってくれる」

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