『ザ・ボス/世界で一番お金が好き!』傲慢女社長が転落!元部下の家に転がりこんで再起を図るコメディ

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《基本情報》

原題:The Boss

出演: メリッサ・マッカーシー  クリステン・ベルピーター・ディンクレイジキャシー・ベイツ

監督:ベン・ファルコーン

製作国:アメリカ 製作年:2016年 98分

あらすじ

お金のためなら平気で人を裏切る凄腕の女性実業家ミシェルは、元恋人ルノーにインサイダー取引を告発され逮捕されてしまう。刑期を終えて出所したものの行くあてのない彼女は、シングルマザーの元秘書クレアが娘と暮らす家に転がり込む。新たなビジネスで再出発を図ろうとするミシェルだったが、昔の仕事仲間に相手にしてもらえず、次第に家に閉じこもるように。そんなある日、ミシェルはクレアが作るケーキにビジネスチャンスを見いだす。 引用元:映画ドットコム

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タイトル通り、お金儲け大好きおばさんの、人間の欲求に超どストレートな発言が炸裂します。序盤で成功している姿は、まるで女版トランプ大統領。ド派手にショーアップされたステージに、ドル札をばら撒きながら登場し「みなさん、お金欲しいですかー!」とシャウト。成功を夢見る自己啓発本のファンたち(?)は熱狂します。あまりにもいろんなものがオブラートに包まれていなさすぎて、痛快であります(笑)

そんな大金持ちミシェルが苦境に陥り、その時助けてくれた人との交流を通して、人との絆の大切さに気づいていく、というのがテーマの一つではありますが、基本的に「お金と成功のために戦うこと」を否定するストーリーではありません。

他人を押しのけて成功を掴んでも人望がない人もいれば、いい人だけど一生貧しく下働きするしかない人もいる。そんな違った長所と短所のある人が、おたがい助けあってハッピーになれるコメディーです。


戦うよりももっと勇気が必要なのは、信頼すること

出典: IMDb

「人生で一番大切なものはお金じゃない」とはいっても、

それは、お金儲けのために他人や道徳をないがしろににしたり、財産で人間の価値を決めたり、稼ぐことが生きる目的になってしまって、大金があっても心の安らぎを感じられない人がいたりするからで。

そもそも、そんなレベルにまで達していない我々小市民にとっては、何をやるにも、お金の問題はついてまわります。

お金があれば、わざわざ中古車なんて買わないし、発泡酒じゃなくてビールを飲む。もっと深刻な話なら、DVを受けているのに、生活に不安があって出ていけない、なんてことも起こらない。ブラック企業にしがみついて、病気になる人だって減ります。

お金は、だれにも邪魔されずに、自分らしく自由に生きていくために必要な、人生の扉の鍵のようなもの。

2つ、3つ開けられる鍵があれば満足して、あとは余計な労力を使わずにのんびり暮らす人もいるし、

それでは満足せずに、次から次へと未知の扉を開けたがって、走り続ける人もいます。

将来は「宇宙飛行士になりたい」なんて幼稚園の頃に言っていたような夢だって、今は宇宙旅行の一番安めのプランなら、2000万円もあれば叶うそうです。大金持ちになれば、お城に住むのも、スーパーカーでドライブするのも、好きなミュージシャンのライブのためだけに自家用ジェットを飛ばすのも思いのまま。

とはいえ、一生懸命働いていても、そんな大金なんて稼げない人のほうが普通です。(いろんな宗教で「強欲」が戒められるのは、ないものねだりをして不満を溜め込まない知恵なのかもしれませんね)

一方、金儲けの才に恵まれても、他人からは陰で軽蔑され、どんな贅沢をしても埋められない心の穴を隠している人がいるのも事実。

大金持ちのミシェルの場合、その穴は子供の頃のトラウマです。

彼女は、もとは孤児院に置いていかれた捨て子でした。

可愛げのなさと、我が強すぎる性格のためか、養子にもらわれては送り返されるのを繰り返し、とうとう「家族なんかいらない、自分の力で成功してやるんだから」という境地に達します。

持ち前の我の強さは里親から嫌われても、ビジネスの世界では強みになったのか、ミシェルはコンプレックスをバネに、みごと宣言通りの大金持ちになりました。

勝つために、成功するために、まわりを押しのけ、踏み台にして、敵意を向けてくる相手がいれば容赦なくやり返す。

その性格は、線路脇のアパートで慎ましく暮らすクレアの居候になってからも相変わらずで、前科がついたことにも、居候になっていることにも、反省の色はなし。(なんだかホリエモンを思い出しました)クレアの娘、レイチェルの参加するガールスカウトのような集会に付き添いでやってくると、経営者目線で言いたいことを言いまくり、反発するボスママっぽい人をやっつけます。

そんなミシェルが、唯一、怯えて逃げ出してしまったシーンがあります。

それは、逮捕の際のバッシングでも、釈放後のまわりからの冷遇でも、戦いの場面でもありません。

クレアの娘レイチェルが、自分たち3人が写っている写真と、手作りのフレームをプレゼントして、「私たち家族みたいだね」と言った幸せなシーンだったのです。

ミシェルは心のこもった無邪気なプレゼントに対して、急によそよそしい態度になり、ディナーを楽しんでいたレストランから逃げるようにいなくなってしまいます。それから、そっけない文面のメモだけ残し、家からもこつ然と姿を消してしまいます。きちんとした別れのあいさつも、お礼もなしです。

「酷いよ!」とレイチェルは悲しみ、クレアも不誠実な態度に怒ります。2人が感じていたのは「喜ばせようとしたのに冷たくされた」「結局あの人は、私たちのことなんか何とも思っていなかった」という気持ちですが、

ミシェルのほうは、本当はレイチェルのプレゼントが気に食わなかったわけでも、クレアに親しみを感じていなかったわけでもありません。むしろ逆で、2人が自分にとっていつの間にか特別な存在になっていた、ということを自覚した途端、急にその関係が崩れることが怖くなったのです。

なぜなら、今までミシェルと関わった人は皆、最終的には彼女に嫌気がさして、去っていってしまったから。

ストーリー上、クレアがミシェルの商売敵に呼び止められているのを目撃して、クレアが裏切るのでは?と疑う引き金になっていますが、

すぐに疑心暗鬼になる心の奥底には、「他人はいつか私を嫌いになって拒絶する」という根深い思い込みがあるように見えます。

すでに自分を嫌っている敵に牙を剥くよりも、

かけがえのない人に見捨てられる痛みのほうが、ずっと恐ろしい。

ミシェルは鏡のようなオブジェに移る歪んだ虚像を見て、

「頼れるのは自分だけ。最後に助けてくれるのは自分だけなのよ」と言い聞かせます。

でも結局は、

「裏切られるかもしれない」というまだ起こっていないことへの不安よりも、

実際に2人を失ってしまった、という現実のほうが、よほど自分の心を深く傷つけているということに気づいて、2人のもとに戻るのです。

戻ってきたミシェルは、「あまり人を信用できる経験がなかったから」と、バツ悪そうにつぶやきます。

この映画は超軽いノリのアメリカン・コメディなので、上記のようなギャグなしの心理描写はほんのちょっとだけなんですが、ミシェルが自分に言い聞かせるセリフは、私がよく考えることと同じだったので、予想外な所で身につまされてしまいました💧

ミシェルもクレアも弱点や困った所はあるけど、こんないい所だってあるよね、と、大らかな目でとらえられている感じがよかったです。

リアルに考えたら、ここで暴力沙汰を起こしたら訴訟を起こされるのでは?とか、逮捕されても隠し財産くらい残ってないの?とか、指摘したくなるような所がありまくりですが、そういうノリの作品なんだと割り切れれば、肩の力を抜いて楽しめて、明るい気分になれますよ。


おまけ:トランプ大統領がプロレスの試合で、天井から本物のドル札をバラまきながら登場するシーン(8:20くらいから)

もうここまで徹底すると笑うしかない。この人が大統領なんだから「事実は映画より奇なり」ですが、現実ではハートフルな展開は期待できなそうですね。

ちなみにこの試合は、プロレス団体WWEで行われた「億万長者対決(Battle of the Billionaires)」。大統領になる前のトランプ氏が、WWEのオーナー・ビンス・マクホマンに宣戦布告。おたがいヅラ疑惑があったっため、代理レスラーに勝負させて、負けた方はバリカンで丸坊主にしようじゃないか、というおバカなストーリーです。詳細はこちら